5年度第1回 : 航空研究センターのこれまでの歩みと活動概要

幹部学校航空研究センター長
 1等空佐 山口 嘉大

 令和5年度第1回目の講演会(三木会)を令和5年4月20日(木)グランドヒル市ヶ谷において開催した。
 今回は航空自衛隊幹部学校航空研究センター長の山口嘉大1佐に「航空研究センターのこれまでの歩みと活動概要」という演題でご講演を頂いた。
 講演終了後、齊藤会長から本講演に対する謝辞と今後の激励の言葉が述べられた。

はじめに

 令和5年3月16日付で幹部学校航空研究センター長に着任した山口1佐です。本日は、航空研究センターの創設経緯、創設後のこれまでの歩み、最近の活動状況及び将来に向けた今後の課題について述べさせていただきます。

航空研究センターの創設経緯等

 航空自衛隊幹部学校は昭和29年8月に創設され、研究部は、初代部長 大平2佐の着任により発足しました。研究部は創設以来、段階的に定員を増加させるとともに、研究業務の幅を広げていきました。発足後、戦略、防衛力整備、部隊運用の他、法令、教育、人事制度などについて研究を実施してきました。「指揮運用綱要」などの各種教範類の起草、「幕僚勤務諸元」の維持、「鵬友」の前身である幹部学校記事の編集・発行業務も担当しておりました。
 一方、研究部が行う研究業務は十分ではない、とのご指摘もありました。第33代幹部学校長山口元空将は「研究部は大戦略の研究を行うことを任務として組織されたはずだが、指定研究、自主研究、教範作成にとどまっており、空自が準拠すべき航空戦略やドクトリン研究等については、ほとんど成果がみられていない。空自の防衛力整備や教育訓練に反映させる役割をしっかり果たすべきである。」と幹部学校50年史に寄稿されました。
 このような状況を踏まえ、空幕は航空研究センターの発足のトリガーとなる検討を開始しました。平成16年度「空自骨幹組織等の改編等に係る検討」において、空自におけるドクトリンや中長期構想等に資する研究体制が不十分、大綱・中期防策定に資する長期的・継続的な研究が必要、そして、図上演習やシミュレーションによる能力評価と諸計画への反映が必要、との認識が高まりました。そして、幹部学校研究部の機能強化の方向性として、研究管理機能及び防衛方策研究機能の強化が掲げられました。その後、安全保障環境に応じた戦略・事態対処構想の考案の必要性、教訓を収集分析しドクトリンを開発するサイクルの必要性、研究企画管理体制の強化が必要と整理され、ドクトリン、戦略理論研究、事態対処研究、教訓業務を行うことにより防衛方策研究機能を強化すべく新たな専門部署が必要である、との結論に至り、航空研究センターを新設することが決定されたのです。
 このような経緯を経て、平成26年8月1日、幹部学校研究部を母体とし、教育集団司令部研究課、各術科学校研究部の部隊運用等に関する調査研究機能を集約することで、航空研究センター(以下「センター」という。)が発足しました。
 センターには、4室が設置され、研究企画管理室は研究の全般統括及び知的資産の維持管理等を、運用理論研究室は空自ドクトリンの開発・普及及び諸外国の運用理論研究を、防衛戦略研究室は安全保障環境に係る研究と防衛力整備等の作成に資する研究を、事態対処研究室は事態対処の実効性向上に資する研究及び教訓業務を、それぞれ担任することとなりました。

創設後の歩み

調査研究業務

 センターは、防衛力整備や部隊運用の結果から教訓を収集・分析し、戦略や作戦等の理論研究の実施し、この成果を航空宇宙防衛戦略の策定や防衛力整備・部隊運用への反映に資するべく、循環的な研究業務を行っています。センターは、これまで全領域作戦に関する研究や、宇宙、サイバー、電磁スペクトラムなどの新領域研究、総合ミサイル防衛や、無人機に関する研究、先端技術に関する研究、意思決定の戦いに関する研究などに取り組んできました。

機関紙『エア・アンド・スペースパワー研究』

 センターは、創設以来、機関紙『エアパワー研究』を発行しております。創刊号は、当時の空幕長、幹部学校長、メジャーコマンド司令官の方々からの寄稿文が掲載されております。私は、着任した研究員に対し、「『エアパワー研究 創刊号』を読み、創設時にセンターに寄せられた期待を学び、それから担当業務にかかれ」と指導しています。現在は『エア・アンド・スペースパワー研究』に名称を変え、本年1月に最新の第10号を発行しております。航空研究センターのHPに掲載しておりますので、ぜひ御一読いただけると幸いです。

国内外研究機関との研究交流

 センターは、研究成果の対外発信の場として、諸外国のシンクタンクや空軍研究機関の参加者を招へいして実施する「空軍大学セミナー」や、国内の研究機関等の研究者を招へいして行う「航空研究センターシンポジウム」を開催してきました。
 また、諸外国の研究機関との研究交流を進めております。米ランド研究所とは、意見交換、長期的交流を行い、共同論文の作成、オンライン会議、相互訪問に関する合意を締結しました。また、米空軍中国航空宇宙研究所(CASI)主催の国際会議へ、前センター長 杉山1佐ほか研究員が参加しました。更に、印空軍エアパワー研究所(CAPS)とは、航空戦略及び航空政策に係る研究協力を推進するため、令和4年9月、MOUに署名し研究交流を行うこととなりました。今後、相互訪問をはじめとした研究交流を推進していくこととなります。

公募幹部「安全保障」

 海自・空自は、大学で特定の学科等を専攻し、民間企業等で業務経験等を有する者を「技術海上幹部・技術航空幹部」として公募し採用してきました。現在、この制度は「公募幹部」と呼称し、いわゆる理工系・医療系の技術幹部だけでなく、「安全保障分野」の専門家を採用することとなりました。センターには、平成30年度以降に入隊した公募幹部が5名在籍し活躍しております。

令和4年度の活動概要

調査研究

 令和4年度は20件以上の研究に取り組み、さまざまな研究成果物を生み出し、その一部を対外発信してきました。その中でも代表的な研究成果として公募幹部 山本3佐の研究論文「認知の罠を知る研究」の概要を紹介します。
 本論文のポイントは、エスカレーション抑止は、脅威を段階的に設定することで圧力を演出する手法であるが、脅威の程度の実態把握は行われておらず、理論上の穴となっていることを指摘したものです。脅威認識は、心理学実験を行うことで測定することが技術的に可能であり、認知バイアス、いわゆる認知の罠も踏まえた脅威認識の実態把握が期待される、ということを主張しています。センターHPにより閲覧することができまので、ぜひ御一読ください。

航空宇宙防衛力シンポジウム

 「空軍大学セミナー」と「航空研究センターシンポジウム」を、新たに「航空宇宙防衛力シンポジウム」という名称に統一し、各年度第1回を諸外国研究機関と、第2回を国内の部外研究機関と実施する形へ見直しました。
 令和4年度第1回シンポジウムは、「大国間競争におけるエア&スペースパワー」をメインテーマとし、CSBA所長であるトーマス・マンケン博士から基調講演をいただき、オンライン形式で開催いたしました。第2回シンポジウムは、「戦略的な挑戦への対峙」をメインテーマとし、國分良成 前防衛大学校長より基調講演をいただき、ハイブリッド形式で実施いたしました。

新たな研究交流事業

 令和5年度から、海外シンクタンクへの研究員派遣に係る新規事業を開始します。最新の調査要領、分析手法、対外発信要領等を実地に習得するとともに、派遣先シンクタンクとの人脈構築に資することを目的とし、海外シンクタンクへ研究員を派遣し、約1年間、派遣先において共同研究等を行うものです。研究員を米ランド研究所へ派遣する予定です。

将来に向けた今後の課題

 センターは、創設以来、研究員の規模を拡大し、研究分野を拡張しつつ、活動成果の充実化を図ってまいりました。
 一方で、諸先輩の多大なる労苦をもって生みだされた「航空研究センター」は、まだまだ未熟であり、創設時に求められた機能を十分に発揮するには更なる発展が必要です。研究成果の質を向上させるとともに、空自の課題を客観的に把握する機能、シミュレーションシステム等を活用した分析機能、空幕に対する提言機能、対外発信機能を改善することが必要です。そして、これらの課題を解決するための最も重要な「人」に係る課題、すなわち研究者の確保、養成及び運用のための人事施策を創出・推進していくことが必要不可欠です。
 今後、これらの課題を着実に解決していけるよう、そして航空研究センター創設10周年の節目を迎える来年度に向けて、微力ながら邁進していく所存です。


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