4年度第4回 : 国家安全保障戦略等及び令和5年度航空自衛隊業務計画並びに予算の概要

令和4年度第4回目の講演会(三木会)を令和5年1月19日(木)グランドヒル市ヶ谷において開催した。
今回は空幕防衛課長の富川輝1佐と空幕会計課長の木村政和1佐に「国家安全保障戦略等及び令和5年度航空自衛隊業務計画の概要」及び「令和5年度航空自衛隊予算の概要」いう演題でご講演を頂いた。
講演終了後、杉山副会長から本講演に対する謝辞と今後の激励の言葉が述べられた。

国家安全保障戦略等及び令和5年度航空自衛隊業務計画の概要

空幕防衛課長 1等空佐 富川 輝

空幕防衛課長の富川です。本日は、昨年12月16日に閣議決定されました国家安全保障戦略等及び令和5年度航空自衛隊業務計画の概要について、説明します。

まず策定の背景として、戦後最も厳しく、複雑な安全保障環境に直面しているとの認識に立ち、一昨年12月の総理指示に基づき、概ね一年の内幕一体となった議論を経て、これまでの国家防衛戦略・防衛計画の大綱・中期防衛力整備計画から、国家安全保障戦略・国家防衛戦略・防衛力整備計画へと体系を変え改定されました。「国家安全保障戦略」では、外交・防衛分野のみならず、経済安保、技術、情報等を含む分野への政府としての横断的な対応に関する指針を明示したこと、「国家防衛戦略」では、我が国防衛の目標及びこれを達成するための方法・手段といった基本方針を明示し、「防衛力整備計画」では、保有すべき防衛力の水準を示しております。これまで防衛計画の大綱に示された自衛隊の体制が防衛力整備計画に記載されるようになったこと、そして中期防衛力整備計画では今後5カ年について記載されていましたが、防衛力整備計画では、5年後と概ね10年後の体制について記載されるようになったことが大きな特徴です。

防衛力構築の考え方としては、現在は強力な軍事能力を持つ主体が、他国に脅威を直接及ぼす意思をいつ持つに至るかの予測は極めて困難な状況ということから、今後の防衛力については、従来の防衛力整備の考え方を転換し、相手の「能力」と「戦い方」に注目して、我が国を防衛する「能力」をこれまで以上に抜本的に強化することとしています。

また、スタンド・オフ防衛能力を活用した反撃能力という点が特徴的でありますが、ミサイル防衛という手段だけで完全に対応することは困難なことから、ミサイル防衛システムにより、飛来するミサイルを防ぎつつ、必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、有効な反撃を相手に加える能力(いわゆる「反撃能力」)を保持することで、ミサイル攻撃そのものを抑止することであります。我が国に侵攻してくる艦艇や上陸する部隊等を阻止・排除するためのスタンド・オフ防衛能力が、30大綱で示されておりましたが、それを反撃能力として活用するという形で定義されております。続いて、それぞれの文書について概要を説明します。

 

【国家安全保障戦略】

国家安全保障戦略は、9章構成となっており、我が国の国益や安全保障上の目標が示されています。策定の趣旨には、本戦略は国家安全保障に関する最上位の政策文書と明記されています。そして中国を「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と位置付け、次いで北朝鮮、ロシアの順で記載しております。第6章では、我が国が優先する戦略的なアプローチが示されており、我が国の安全保障に関わる総合的な国力の主な要素として、外交力、防衛力、経済力、技術力、情報力といった幅広い分野が明確に記載されていることが大きなポイントとなります。そして、それらを構成する主な方策として、7つ掲げられ、先ほど述べたスタンド・オフ防衛能力を活用した反撃能力の意義等についても明示されています。

【国家防衛戦略】

国家防衛戦略は、防衛の目標を設定し、それを達成するためのアプローチと手段を示すものと位置付けられており、国家安全保障戦略と同じく9章構成となっています。

第3章では、我が国防衛の基本方針として、3つの防衛目標と3つのアプローチが示され、30大綱から方向性に変化がないように見えますが、侵攻が生起する場合、「我が国が主たる責任をもって」対処すると記された箇所については、防衛力を抜本的に強化する変革を強調しているといえます。第4章では、防衛力強化にあたって重視する能力として、いわゆる7つの柱、スタンド・オフ防衛能力、統合防空ミサイル防衛能力、無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制・情報関連機能、機動展開能力・国民保護、持続性・強靭性が掲げられています。第5章の将来の自衛隊の在り方では、空自は高脅威環境下における強じんかつ柔軟な運用による粘り強い任務遂行のため、航空防衛力の質・量の見直し・強化、効果的なスタンド・オフ防衛能力の保持、航空自衛隊を航空宇宙自衛隊とすること等が挙げられています。

続いて第7章について紹介します。7つの柱のほか重視する事項とされたのが防衛生産・技術基盤と、人的基盤・衛生機能です。中でも防衛生産・技術基盤については、自国での装備品の開発・生産・調達を安定的に確保し、新しい戦い方に必要な先端技術を防衛装備品に取り込むための不可欠な基盤であり、いわば防衛力そのものと位置づけ、その強化は必要不可欠と認識しています。具体的には新たな戦い方に必要な力強く持続可能な防衛産業の構築、リスク対処、販路拡大等の取組を実施していく考えとなっています。防衛生産基盤の強化としては、適正な利益確保のための施策を導入し、防衛事業の魅力化を図ることや、サプライチェーンを含む基盤の強化、新規参入の促進を実施すると明記されているほか、防衛技術基盤の強化としては、防衛産業や非防衛産業の技術を早期装備化につなげる取組を積極的に推進していくことや、国際共同開発、民生先端技術を積極活用するための枠組みを構築していきます。最後に、防衛装備移転については、移転三原則や運用指針を始めとする制度の見直しについて検討するとともに、官民一体となった移転を推進するため基金を創設し、企業支援を実施していくと記載されております。

【防衛力整備計画】

防衛力整備計画は、14章構成となっており、第1章では計画の方針が示されています。防衛力整備計画は、我が国として保有すべき防衛力の水準を示し、その水準を達成するための中長期的な整備計画を示すものと位置付けられています。5年後の2027年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処することとし、おおむね10年後までに、より早期かつ遠方で侵攻を阻止・排除できるように防衛力を強化していくと示されています。また、7つの柱のほか、技術基盤・人的基盤等も併せて重視する方針が示されています。(以下、別表等について説明)

防衛力整備計画について、今後の課題としては、これまでにない規模の予算を執行していく必要があるため、何より「確実な執行」が重要であると認識しています。そのため、運用構想、要求性能等を早期に設定し、調達要求に係る調整等を先行的に実施してく必要があります。また、執行の成果についても継続的に評価し、当初描いた防衛力整備の絵姿が達成できていることを確認していく必要があると考えております。

【令和5年度業務計画】

引き続き、令和5年度航空自衛隊業務計画の概要について説明します。

防衛省の令和5年度予算案の考え方です。令和5年度は、防衛力整備計画の初年度として、多次元統合防衛力を抜本的に強化し、相手の能力と新しい戦い方に着目して、5年後の令和9年度までに、我が国への侵攻が生起する場合には、我が国が主たる責任をもって対処し、同盟国等の支援を受けつつ、これを阻止・排除できるように防衛力を強化するために必要な経費を積み上げています。防衛力の抜本的強化にあたり、7つの重視分野(7つの柱)に基づいて事業を推進するものとされています。

令和5年度の7つの柱等に基づいて査定された主要事業等について説明します。まず、スタンド・オフ防衛能力として隊員の安全を可能な限り確保する観点から、相手の脅威圏外からできる限り遠方において阻止する能力を高め、抑止力を強化するためスタンド・オフ・ミサイルとしてJSM及びJASSMを取得します。JSMについてはF-35A、JASSMについてはF-15能力向上機に搭載します。次に、統合防空ミサイル防衛能力としてHGVや低RCS目標への対応、太平洋方面や島嶼部の警戒管制機能の強化を図るためFPS-5及び7の機能付加、JADGEの能力向上を実施します。また、PAC-3MSE及び基地防空用地対空誘導弾を取得します。以上の事業により、遠距離から侵攻戦力を阻止・排除し、我が国への侵攻そのものを抑止します。

続いて、無人アセット防衛能力としてターゲティング能力の獲得のため、戦術無人機の実証研究に着手します。次に、領域横断作戦能力として宇宙領域については、SDA衛星の製造及び地上システムの完整に向けた事業を継続します。また、宇宙領域把握のための装備品を安定的に運用する体制を強化するとともに、指揮統制機能等を強化するため宇宙作戦群の改編を実施します。サイバー領域については、省として実施するRMF(リスク管理枠組み)の事業に着手するほか、空自のサイバーセキュリティ態勢を強化するための各種事業を独自に実施していきます。電磁波領域については、電子戦能力に優れたF-35A/Bの取得、電子戦能力の向上、搭載弾薬数の増加等に係るF-15能力向上の実施、受信電波周波数範囲の拡大や遠距離目標収集能力の強化のためRC-2の搭載装置等を取得します。航空領域については、前述のF-35A/BやF-15能力向上のほか、対艦攻撃能力及びネットワーク機能等に係るF-2能力向上改修を実施します。次に、指揮統制・情報関連機能として防衛駐在官を英国に1名増員するとともに、クウェートからカタールへ振り替え、情報収集体制を強化します。以上の事業により、領域を横断して、より効果的に対処し得る能力を確保します。

続いて、機動展開能力・国民保護として必要な部隊等を迅速に機動展開できる航空輸送力を確保するため、C-2を取得します。次に、持続性・強靭性について継続的な部隊運用に必要な各種弾薬、燃料を確保します。また、部品不足等による非可動を局限し、保有装備品の可動数の最大化及び部隊能力の維持向上のため、十分な部品等を確保します。航空戦力発揮の基盤を強化するため、施設の抗たん性向上、機能維持・強化及び老朽化対策を推進します。以上の事業等により、高脅威環境下においても強靭かつ柔軟な運用により、粘り強く任務を遂行します。

7つの柱とは別に、これから述べる共通基盤についても事業等を推進します。防衛力を支える要素として隊員の生活勤務環境を改善するため、宿舎、隊舎及び庁舎等の整備並びに備品や被服等を取得します。また、令和4年3月より北海道地区等の隊舎に冷房設備の設置が可能となったことから、各基地等の空調設備を整備します。さらに、航空機内特有の状況下での訓練を実施するために、航空医療搬送訓練装置を導入するとともに、輸送機等から後送先へ複数傷病者の同時搬送が可能な大型救急車両等を整備し、衛生機能を強化します。多角的・多層的な安全保障協力を推進するため、共同訓練への参加や海賊対処に係る航空輸送任務等に従事します。気候変動により予測されるあらゆる環境下においても、与えられた任務・役割を果たせるよう、気候変動対策と防衛力の維持・強化を同時に推進します。最適化への取り組みとして、装備品の5箇年度を超える長期契約の活用やまとめ買い等により、調達コストを縮減し安定的な調達を追求するとともに、既存部隊の廃止や部外委託等を進めることにより、全自衛隊で定員配置を見直し、宇宙、サイバー、電磁波といった新たな領域に人員を重点配分することで、組織・定員を最適化します。

続いて、早期装備化のための新たな取組みについて説明します。本取組みは、防衛関連企業等からの提案や、スタートアップ企業や国内の研究機関・学術界等と連携し、現存する民生技術・既製品・海外装備品なども活用しながら、先端技術研究の成果を防衛装備品の研究開発に積極的に取り込むことで、早期装備化を推進するものです。一例として3つの事業について説明します。無人アセットとしては、基地警備における警戒監視の強化や人的被害局限等のため、基地警備用犬型監視器材を取得します。教育・訓練等の高度化として、任務の多様化及び装備品の高度化に対応し得る人材を効率的に育成するため、術科教育用のVR/ARシステムを整備します。ロジスティクス等のスマート化として、戦闘機の兵装を同時かつより迅速に実施するため、兵装システム(自動搭載器材等)の導入を推進します。以上、令和5年度航空自衛隊業務計画の概要の説明を終了します。

令和5年度航空自衛隊予算の概要

空幕会計課長 1等空佐 木村 政和

1 予算編成経緯

令和5年度予算編成は、令和4年12月16日に国家安全保障戦略等が閣議決定され、防衛力整備計画初年度の予算要求となった。日程は例年と同様となり、令和4年12月23日に政府案が閣議決定された。また、令和4年度補正予算については、11月8日に閣議決定され、12月2日に成立した。

【概算要求まで】

令和4年6月7日に「経済財政運営と改革の基本方針2022」、いわゆる「骨太の方針」が閣議決定された。また、7月29日には「概算要求に当たっての基本的な方針」が閣議了解され、概算要求基準が示された。

防衛省は、昨年度同様、概算要求基準の上限額内で概算要求を行った。

その結果、防衛関係費の概算要求については、歳出予算が対前年度4159億円増の5兆5947億円(SACO関係経費及び米軍再編経費のうち地元負担軽減分に係る経費を除き、デジタル庁・各府省共同プロジェクト型システム及び各府省システムに係る経費を含む。)となった。この際、年末に改定する「国家安全保障戦略」及び「防衛計画の大綱」を踏まえて策定される新たな「中期防衛力整備計画」の初年度に当たる令和5年度予算については、同計画に係る議論を経て結論を得る必要があることから、予算編成過程において検討することとされ、別途「事項のみの要求」を行った。

【政府予算案決定まで】

令和4年10月28日に閣議決定された「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」において、我が国に飛来する経空脅威等に対する自衛隊の安定的な運用態勢の確保、自衛隊のインフラ基盤の強化や生活・勤務環境の改善が具体的に示された。また、12月2日に閣議決定された「令和5年度予算編成の基本方針」において、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」を速やかに実行に移し、経済対策の効果が最大限に発揮されるよう万全の経済財政運営を行うこととされた。防衛関連としては、国際情勢・我が国を取り巻く安全保障環境を踏まえ、防衛力を5年以内に抜本的に強化することとされた。防衛力の抜本的強化にあたっては、必要となる防衛力の内容の検討、そのための予算規模の把握及び財源の確保を一体的かつ強力に進め、年末に改定される新たな「国家安全保障戦略」等に基づいて計画的に整備を進めることとされた。

防衛省は、これを受けて、防衛力を5年以内に抜本的に強化するために必要な取組を積み上げて、新たな「整備計画」の初年度に相応しい内容及び予算規模を確保し、令和5年度当初予算を「防衛力抜本的強化「元年」予算と位置づけた。

こうして編成された令和5年度予算のポイントとして、財務省はホームページ上で次のとおり言及している。

①令和5年度の防衛関係費は、新たな「防衛力整備計画」の初年度の予算として、これまでの水準を大きく上回る6兆6001億円(対前年度+1兆4213億円)を計上。SACO・米軍再編経費を含む歳出予算は、6兆8219億円(対前年度+1兆4214億円)

②防衛省における装備品取得、研究開発、施設整備等の事業が複数年度を要するところ、整備計画初年度から可能な限り事業を開始するため、新規契約額を8兆9525億円(対前年度+5兆4546億円)に拡大。SACO・米軍再編を含む新規契約額は、9兆5768億円(対前年度+5兆5054億円)。

③歳出予算増額の財源は、歳出改革(0・2兆円程度)と税外収入(1・2兆円程度)により確保。また、税外収入等を防衛力の整備に計画的・安定的に充てるため、新たな資金制度(「防衛力強化資金(仮称)」)を令和5年度に財源確保法(仮称)により創設予定。

④防衛力整備計画の方針として、宇宙・サイバー・電磁波領域を含む全ての領域における能力を有機的に融合し、平時から有事までのあらゆる段階における柔軟かつ戦略的な活動の常時継続的な実施を可能とする、多次元統合防衛力を抜本的に強化。

⑤重点分野として、スタンド・オフ防衛能力や統合防空ミサイル防衛能力などを中心に、防衛力を抜本的に強化。また、庁舎・隊舎等の自衛隊施設の老朽化・災害対策強化や、インフラの強靱化を集中的に推進。

⑥防衛力整備の効率化・合理化を徹底することにより、2572億円の縮減を実現。

これらのことから、財政健全化に向け徹底した歳出予算の見直しが行われる中、防衛関係費については我が国を取り巻く安全保障環境を踏まえ、新たな国家安全保障戦略等に基づき、5年間で防衛力を抜本的に強化するため、防衛関係費への予算配分が重視されたものと考える。

2 経費の概要

【令和5年度航空自衛隊予算(案)】

以下、防衛力整備計画対象経費について説明する。歳出予算は、対前年度6941億円増の1兆8613億円で、対前年度比159%となった。

歳出予算の内訳として、人件糧食費は、対前年度71億円増の4111億円、歳出化経費は、対前年度3922億円増の9814億円、一般物件費は、対前年度2949億円増の4688億円となった。

また、新規後年度負担については、対前年度1兆1685億円増の1兆9873億円で、対前年度比243%となった。

一般物件費と新規後年度負担を合わせた契約ベースでは、対前年度1兆4634億円増の2兆4561億円で、対前年度比247%となった。

【航空自衛隊予算案の総括】

総括すると、防衛力抜本的強化「元年」予算として、前年度比で大幅な増額が認められた予算となった。

結果として、令和5年度度予算案については、防衛力を5年以内に抜本的に強化するため、将来の防衛力の中核となる分野である「スタンド・オフ防衛能力」、「無人アセット防衛能力」等の所要額が確保された、新たな防衛力整備計画の初年度に相応しい内容の予算となった。