5年度第3回 : 安全保障3文書を踏まえた空自後方の課題及び補給本部の取り組み

令和5年度第3回目の講演会(三木会)を令和5年10月25日(水)グランドヒル市ヶ谷において開催した。

今回は補給本部長の阿部睦晴空将に「安全保障3文書を踏まえた空自後方の課題及び補給本部の取り組み」という演題でご講演を頂いた。

講演終了後、齊藤会長から本講演に対する謝辞と今後の激励の言葉が述べられた。

安全保障3文書を踏まえた空自後方の課題及び補給本部の取り組み

補給本部長 空将  阿部 睦晴

1 はじめに 

つばさ会の皆様には、航空自衛隊に対して日頃からご支援に感謝申し上げます。また、十条基地については、東京つばさ会からも格別なご支援をいただいていることに重ねて感謝申し上げます。

2 安全保障3文書の概要と空自後方の目標

(1)安全保障3文書の概要

安全保障3文書については、2013年に策定された国家安全保障戦略、元々の51年大綱から続いてきた防衛計画の大綱、そして中期防衛力整備計画が、今回、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画という3本の形になりました。目的、目標が明確になり、そのための手段、方法が示されました。また、いつまでに何を整備するかが規定され、それに対する予算も確保されたことが戦略上、重要なことと認識しています。

(2)空自後方の目標

国家防衛戦略における関連記述内容として、後方について主に書かれているところが2か所ありまして、1つ目はⅢ「我が国の防衛の基本方針」1我が国自身の防衛体制の強化(1)我が国の防衛力の抜本的強化です。ここでは、「粘り強く活動し続けて、相手方の侵攻意図を断念させられるようにする」、そして5年後、10年後の防衛力にするために、まずは5年後、最優先課題として現有装備品を最大限活用するため、可動率向上や弾薬・燃料の確保を図る必要があると書かれています。

それともう1か所、7つの柱の中の7「持続性・強靭性」、Ⅳ「防衛力の抜本的強化に当たって重視する能力」のところであります。「有事において自衛隊が粘り強く活動でき、また、実効的な抑止力となるよう、十分な継戦能力の確保・維持を図る必要がある。」と明示されています。そして、そのために2027年度までに、そして10年後までに、様々な目標が設定されています。

「2027年までには、弾薬については必要数量不足状況を解消し、製造態勢を強化、そして火薬庫を増設する。装備品については部品不足を解消し、計画整備等以外の装備品が全て可動する態勢を確保する。」と明示されています。そして、「概ね10年後までには、弾薬については適正な在庫の確保を維持するとともに、弾薬庫の造成を完了。そして装備品については、適正な在庫の確保を維持、これは新規装備品も含む。」と書かれています。これまで追及していた可動率をいかに上げていくのか、可動数をいかに確保するのか、ここで考えるべきは、「戦闘による損耗」をいかに考えていくのか。すなわち、いかに被害を局限するのか、さらには被害を受けた場合に如何に修復をしていくのかを考えなければならない。従来から取り組んできた「装備品の可動数最大化」、新たな目標として「被害局限・被害復旧」(継戦能力の確保・維持)と捉えています。

3 空自後方の課題

(1)装備品の可動数最大化に係る課題

航空機関連部品を例に説明したいと思います。必要な部品には必ず調達リードタイムがあり、例えば5国であれば、支援対象年度の7年前に見積もります。7年前に、7年後の飛行時間を仮置きし、その時の部品の消費実績に基づいて、5年度の活動に必要な部品を見積もります。補給本部及び補給処が統制している部品は、約92万品目、うち航空機関連部品は52万品目です。この52万品目を全てこのような観点でチェックをしながら、必要な部品を見積もり、それを取得しています。

1つ目は、将来を見積もる精度に限界があります。支援対象年度の5年度について、4国の部品は29年度に見積もって、その時に飛行時間を見積もる。ところが1年、2年、3年経つと当該年度の活動等が克明になってきますし、先に見積もった分からブレが出てきます。6年前に見積もったものと、2年前のものとにギャップが出てきてしまう。このギャップが1つの大きな可動数最大化を確保できない要因になっていると思っています。

2つ目は、航空機関連部品の52万品目の8割強について「消費予測」と「消費実績」を実態の5年間で見ると消費予測の方が実績を上回ったのが72.1%。消費予測の方が実績を下回った、つまり部品不足に陥ったのが26.9%。見積もりの粗さが出てきてしまう。主要な原因としては、バスタブ曲線で故障率が導入当時には高く、ある程度落ち着き、減勢期にまた高くなる。数百機の母数がある機種のデータと数機しかない航空機のデータは粗さが相当に変わってくる。このようなことからも見積もり予測の限界があると考えています。

3つ目は、見積もりから運用までの間に所要量が変化する。当初要求をした時に、企業の生産能力による限界を受けて、数がどうしても作れない。また、調達リードタイムにより見積もった5国、4国、3国、2国、歳でそれぞれ必要な部品において、例えば、予算編成の年割調整における増減によってブレがでてきてしまう。契約をする段階で、為替・物価が変動します。契約を履行中、企業においても工場の事故などで生産能力の確保に変化が生じます。また、子部品が海外のものであれば、数量が納期に入荷しないこともあります。さらに、緊急発進数の変化、変動、災害派遣の活動で航空機が派遣されています。これらを事前に見積もるということは難しい。これらの色々な要素が絡み合った中で、装備品の可動数最大化を図らなければならないと考えています。

総括をしますと、予算不足、見積もり・予測の限界から①飛行時間、②消費予測、そして③見積もりから運用までの所要量等の変化からこのような結果に陥ってきたと考えています。

(2)被害局限・被害復旧に係る課題

ア 人的な課題について
1つ目は、人的戦力(補完防衛力)の不足です。常備を100とした場合に、即応予備自衛官は3.2%、補完防衛力としての予備自衛官は19.3%、ちなみに航空自衛官は、1.7%です。補完防衛力が決定的に足りない状況は理解をしておく必要があります。

2つ目は、少子化による更なる募集難です。我が国の人口のピークは2010年、1億2806万人とも言われております。そのピークは過ぎ去り、下降傾向に入っています。総人口は40年後に約26%減、18歳人口は、20年で約25%減することであります。募集対象は総人口の倍のスピードで減少の状況も考えておかねばならないと思います。

イ 物的な課題について
1つ目は、被害を受け易く、影響が大きいことです。補給処では担任している物品を保管していますが、仮にそこが攻撃を受けると影響が極めて甚大になることを認識しなければならないと思います。

2つ目は、短期間での修理・修復が困難であることです。高性能な装備品は、修復するのに月単位若しくは年単位が必要になってくるので、短期間のスピードで直せないことは、認識しておかなければならないと考えています。

ウ 制度的な課題について
1つ目は、平時を基礎とした規則・基準となっていることです。平時の運用に基づき、設定された安全基準、整備基準、各種規則・手続きは、有事になると平時は許容できなかったリスクを許容しなければならない場面が生起するにもかかわらず段階的にはなっていないことです。

2つ目は、民間依存による即応態勢です。諸外国軍隊には工廠があって、「部隊の後方」と「補給処・工廠」の2段階の後方で、工廠の機能はMROU(メンテナンス、リペア、オーバーホール、アップグレード)を命令一下で全てできる体制を持っています。我が国はそのMROUを企業に頼っており、部隊の後方」、「補給本部等」、「企業」の3段構えによって成り立っていることが一番大きな違いです。企業とは契約によりますので、契約手続きの時間が必要になり、民間に依存をしている限り、この即応態勢のデメリットは認識をしておく必要があると思います。

4 補給本部の位置付けと役割 

補給本部が担うべき役割は、「部隊の後方」、「補給本部等」、「企業」の3段構え故のデメリットをいかに最小化していくのかが1つの大きな役割と思います。企業に関与、依存をしている部分のメリットを最大化させていくのかを考えないといけません。この態勢の価値を高めていかなければならない。そして、「部隊の後方」、「補給本部等」、「企業」の3段構え後方のバランスを確保していくようにする。この3つの役割を踏まえた上で、取り組みについて話していきたいと思っています。

5 補給本部の取り組み

(1)装備品の可動数最大化に係る取り組み

調達リードタイムの短縮
1つ目は、官給品の見直し・変更等です。原材料を先行的に官が準備するアイディアです。原材料に係る取得の期間は短縮できるという発想です。

2つ目は、ペナルティの緩和です。官の契約において、納期を逸脱するとペナルティが課されます。ペナルティを緩和することで、更に調達リードタイムが短くなるのではと思っています。

3つ目は、複数取得源の確保です。否応なしに短い時間で手に入れる必要があるならば、海外に求めて、複数の取得源の確保も必要があると思っています。

(2)部品偏在の是正・改善

部品によって所要数に対し満たしていないもの、在庫を持ち過ぎているものがある偏在を如何に緩和していくか、是正改善を図っていくのかです。在庫を持ち過ぎているものをどう抑え込んでいくのかを考えて取り組んでいく必要があると考えています。

(3)安全在庫の確保

見積りや予測には当然限界があるので、その見積りが期待値を下回った場合について担保するのが、安全在庫です。物によって調達リードタイムの違いや部位によって違いがあり、少し細かく規定していくことに取り組んでいるところです。

(4)隊員の意識改革

1つ目は、思考の起点を現在から将来へです。ついつい現状の可動数、可動率に目がいってしまい、将来のところに目がいかない。発想を変え意識を変えいく必要があると思っています。フォアキャスト的な考えからバックキャスト的な、将来何が困るのかを考えた上で、今何を取り組まないといけないのか意識を変えていく必要があると思っています。

2つ目は、個別最適から全体最適へです。PDCAサイクルは工場の中で生産性を高めるために、生まれたものです。プランを作る前の段階の意思決定のところが重要であり、このPDCAに加え、OODAループの意識を、今のやり方が本当に妥当なのかを見きれるような発想、考え方ができるように意識を変えていかなければならないと思っています。

3つ目は、保守的思考から挑戦的思考へです。民間の中で言われているクリティカルシンキングと思っています。自分の考えは完璧ではない、足りないところがあることを自覚して、故に目的から常に考えながら、結果が出たとしても考え続ける発想が必要だと思っています。

(5)人的な取り組み

1つ目は、業務の省力化・効率化・合理化です。従来やっていた業務をいかに効率化、合理化を図っていくかであります。補給本部も、やめる・まとめる・かえることを抜本的にやっていくような取り組みもしなければならないと思っています。

2つ目は、補給本部体制の見直しです。我が国の人口動態、補完防衛力の状況から、補給本部については自衛官を部隊の方に回し、事務官を補給本部に、現役の自衛官は部隊へ、定年退職後の再任用の自衛官を逆に今度は補給本部で勤務する体制を構築しないといけないのではと思っているところであります。

3つ目は、取得形態の変更です。例えば、車ですけども、現在民間で使っている全く同じ仕様の車を取得することを大前提にしています。これをレンタルに変えて、見積もって見ますと、さほど大きな差がない。また、車両整備員が低減できます。民間に依存をできるところとできないところを弁別し、レンタル・リース、サブスクに変えることも必要と思っています。

(6)物的な取り組み

1つ目は、事態等対処用部品の確保です。どこで有事、事態が起こるかもわかりません。一定の事態等対処用の部品を、年間を通じて確保する取り組みを行っているところであります。

2つ目は、官民による分散防護です。各補給処、部隊の倉庫における保管の分散を図らなければならないと思っています。また、民間の流通機能を活用できないかと考えております。小さな部品などは、どこかの倉庫に留め置いてもらう。我々の保管業務が低減できるとともに、現在の制度的な限界のところを少し緩和できるような体制を詰めていく必要があると思っています。

3つ目は、代替品の確保です。民生品の組み合わせによってそれが代替できるものを、あらかじめ考えておかなければならないというものであります。今ある機能をばらかした状態の物を代替品で構成し、それらの組み合わせによって何とか代替が作れないかを考えていく必要があると思っています。

(7)制度的な取り組み

1つ目は、有事対応基等の制定です。全ての基準が平時になっているので、許容できるリスクを何段階に分けたリスクを明確にした基準を作っていくことに取り組んでいく必要があると思っています。

2つ目は、会計調達制度の見直しです。契約手続きをいかに短くするのか、最適化が大きな課題です。日々の業務において制度をいかに簡単に、より簡素にするのかになります。今後とも関係部署と調整を行い、これに取り組んでいく必要があると思っています。

3つ目は、端末輸送手段の確保です。輸送手段は民間力へ非常に依存をしております。民間に依存したものが確実に届くようにするためには、ラストスリーマイルのいわゆる拠点が、最後の基地まで届けてもらえるような体制への企業サポートをしていく必要があると思っています。

6 最後に

「平時の備えがいくさを決し、後方なくして勝利なし」これは、平成28年に補給本部60周年を記念して後方魂として策定されたものです。後方がいかに将来困るのか明らかにしてそれを平時の中で準備をしておくことが、いかに大切なのか、その準備こそが戦を決するファクターと改めて肝に銘じて、今後益々頑張っていきたいと思っています。