5年度第4回 : 航空防衛力整備に係る取組みの状況及び令和6年度航空自衛隊予算案の概要
令和5年度第4回目の講演会(三木会)を令和6年1月18日(木)グランドヒル市ヶ谷において開催した。
今回は空幕防衛課長の富岡慶充1佐と空幕会計課長の澤田裕之1佐に「航空防衛力整備に係る取組みの状況~航空宇宙自衛隊に向けて~」及び「令和6年度航空自衛隊予算案の概要」いう演題でご講演を頂いた。
講演終了後、齊藤会長から本講演に対する謝辞と今後の激励の言葉が述べられた。
航空防衛力整備に係る取組みの状況~航空宇宙自衛隊に向けて~
空幕防衛課長 1等空佐 富岡 慶充
1 はじめに
つばさ会の皆様には、航空自衛隊に対して平素からご支援いただき感謝申し上げます。来たる令和6年度は、防衛力整備計画の2か年目を迎える非常に重要な年となります。本日は貴重な機会を頂きましたので、令和6年度の航空自衛隊業務計画における主要事業の概要に加え、最近の防衛力整備に関する主要なトピックについて説明させていただきます。
2 7つの重視分野における令和6年度主要事業の概要
まず、令和6年度の主要事業について説明する前に、航空防衛力を発揮する上で要(かなめ)となる各機能と防衛力整備上の7つの重視分野(いわゆる〝柱〞)との関係について説明します。要となる機能とは、地上・空中レーダー等のセンサーに関する機能、JADGE等の指揮統制に関する機能、戦闘機、SAM等のシューターに関する機能の3つから構成され、これらは相互に結び付いています。3つの機能を発揮するためには、航空輸送や航空救難等の運用支援に関する機能及び整備、施設等の運用基盤に関する機能の発揮が必要です。これら全ての機能が発揮されて初めて、航空防衛力を発揮することができます。7つの重視分野(①スタンド・オフ防衛能力、②統合防空ミサイル防衛能力、③無人アセット防衛能力、④領域横断作戦能力、⑤指揮統制・情報関連機能、⑥機動展開能力・国民保護、⑦持続性・強靱性)は、これら全ての機能と密接に関係しており、7つの重視分野を抜け目なく強化していくことが防衛力を強化していく上では不可欠となります。
ここからは、令和6年度の主要事業について説明します。まず、「①スタンド・オフ防衛能力」関連については、F―35Aに搭載するJSM、また、F―15能力向上機に搭載するJASSMを取得します。同時に、スタンド・オフ・ミサイルの発射プラットフォームとして、F―35A、F―15及びF―2戦闘機に対して、所要の能力向上改修を行います。
「②統合防空ミサイル防衛能力」関連については、警戒管制能力の強化として、極超音速ミサイルを探知・追尾する能力の強化を図るべく、大湊のFPS―5及び沖永良部のFPS―7のレーダーへ機能付加を行います。輪島のFPS―3については、FPS―7へ換装することを計画していましたが、元日に発生した「令和6年能登半島地震」の影響等について、今後の状況を注視して参ります。
「③無人アセット防衛能力」関連については、スタンド・オフ・ミサイルの能力発揮に資するため、戦闘艦艇等の位置情報について、相手の脅威圏内においても情報収集を可能とする戦術無人機に搭載するESMセンサーの整備を行います。また、戦術無人機の運用に向けた実証研究として、戦術無人機に係る機能・性能向上、保守、教育、試験等の調査研究を実施し、情報収集・警戒監視・偵察・ターゲティング機能の強化を図ります。
「④領域横断作戦能力」関連については、航空領域における能力強化として、F―35A/Bをそれぞれ取得するとともに、F―15に関して、電子戦装置及びミサイル発射等に係る能力向上改修を実施します。また、F―2に関して、戦術ネットワークの連接機能やASM―3(改)等のミサイルの発射能力を付加する能力向上改修を実施します。宇宙領域は、今や国民生活及び安全保障の基盤となっており、宇宙利用の優位を確保することは極めて重要です。このため、静止軌道上の宇宙物体の位置や軌道等を把握するとともに、地上設置型の宇宙監視センサーでは把握することが困難な相手方の宇宙機の運用状況等を把握するため、令和8年度に予定するSDA衛星に係る打上げサービスの取得を進めます。また、宇宙領域に係る指揮統制、または、インテリジェンス機能を強化すべく、宇宙作戦指揮統制サービス等を整備します。サイバー領域における能力強化については、一過性の「リスク排除」から継続的な「リスク管理」へと考え方を転換し、情報システムの運用開始後も常時継続的にリスクを分析・評価し、必要なセキュリティ対策を実施するRMF(リスク・マネジメント・フレームワーク)に係る施策を計画的に進めていきます。また、サイバーセキュリティの業務に携わる隊員の教育訓練及び資格の取得等、サイバー人材の育成を推進します。電磁波領域における能力強化は、現有のYS―11EBの情報収集能力の陳腐化や可動率の低下に対応するため、電波情報収集機RC―2を整備するとともに、搭載する通電機器等を取得します。
「⑤指揮統制・情報関連機能」関連については、各種情報を収集するとともに、防衛協力に係る調整業務を円滑に実施するため、6年度末までに、21名、在勤19大使館1代表部に、航空自衛官を派遣します。また、周辺国の軍事活動の活発化を踏まえ、情報収集・分析機能の強化を図るべく、高い機動性等を有した移動型電波測定装置を整備します。
「⑥機動展開能力・国民保護」関連については、各種能力を向上させたCH―47Jを5機取得します。また、民間空港等の公共インフラを運用基盤として使用できるよう、引き続き関係省庁等との調整の上、必要な施策を進めます。
「⑦ 持続性・強靱性」関連については、弾薬の確保、可動数の向上(部品不足の解消等)を図るための装備品の維持整備及び施設の抗たん性を向上させる等の強靱化施策等を行います。弾薬の確保としては、主としてF―35A/B、F―15能力向上機に搭載する中距離空対空ミサイルAIM―120を、F―2及びF―15に搭載する中距離空対空ミサイルAAM―4Bを、F―2能力向上機に搭載する空対艦ミサイルASM―3Aをそれぞれ取得します。装備品の維持整備については、所要の部品を確保し、保有装備品の可動数の最大化及び部隊能力の維持向上を進めます。施設の強靱化は、F―35等の新規装備品の配備時期を勘案した態勢確立に必要な施設整備を行います。加えて、主要司令部の地下化、戦闘機用分散パッド及び火薬庫の整備等、粘り強く戦い抜くために必要な施設整備を進めます。
最後に、7つの主要事業が機能するために不可欠な共通基盤として、防衛力を支える要素に関連する事業を説明します。まず、人的基盤の強化として、女性自衛官の活躍を推進するため、女性用区画の整備や、全ての隊員の仕事と家庭の両立支援を図るため、庁内託児施設の維持整備等を行います。衛生機能の強化として、第一線救護能力等の強化に必要な訓練器材の取得に加え、戦傷者の後送間救護能力の強化に必要な遠隔医療支援用器材及び航空搬送用医療器材の整備を進めます。早期装備化のための取り組みとしては、学校教育にかかるDXを推進し、効率的かつ効果的な教育を実現していきます。
なお、防衛力整備計画では、これまでにない防衛費が計上される一方で、近年の物価高騰や為替の変動に伴う装備品等の価格高騰の傾向があります。政府として43兆円程度の枠内で現防衛力整備計画を達成する方針に変わりないことを踏まえると、今後の予算編成では、これまで以上に合理化・効率化施策や経費の低減等に取り組んでいく必要があります。
続いて、航空自衛隊の編成事業について説明します。令和6年度末の自衛官定数は、前年度から31名増の4万7007人となりました。また、事務官等の増員は、宇宙領域専門部隊の体制強化をはじめとする宇宙領域事業の推進のための増員等を実施します。
3 最近の防衛力整備に関するトピック
(1)宇宙領域に係る取組みの状況
宇宙領域専門部隊等の態勢整備について、当初、我が国の宇宙利用を確保するため、令和2年5月にわずか20名で新編された「宇宙作戦隊」は、令和4年3月に70名規模の「宇宙作戦群」となり、今年度末には約200名規模まで増員する予定です。また、防衛力整備計画では「宇宙作戦能力を強化するため、SDA態勢の整備を着実に推進し、将官を指揮官とする宇宙領域専門部隊を新編するとともに、航空自衛隊を航空宇宙自衛隊とする。」ということが記載されました。これに伴い、宇宙領域専門部隊の拡充を進めていく予定です。宇宙領域に係る態勢整備について、航空自衛隊が整備している部分は大まかに、静止軌道上の宇宙物体を監視するレーダー装置、宇宙物体の正確な距離を測定するレーザー装置、光学望遠鏡を搭載したSDA衛星、各種センサー情報を基に宇宙物体の把握や解析等を行うためのSSA運用システムで構成されています。ここに、JAXAが保有するレーダーや光学望遠鏡を連接するほか、米軍や国内衛星運用者等とSSAに関わる情報の共有を実施する計画です。これらによって、自衛隊の任務保証を目的として、宇宙空間の安定的利用、宇宙利用の優位性を確保する計画です。また、宇宙領域における態勢整備を進めていく上では外部との連携強化は欠かせません。最近では米宇宙コマンドの多国間調整所に航空自衛官1名を派遣したほか、昨年12月にはドイツで行われた連合宇宙作戦イニシアチブ(CSpO)に航空幕僚長が初めて参加しました。
(2)次期戦闘機に係る取組みの状況
次期戦闘機は、F―2が退役を開始する令和17年頃に初号機を配備するべく、令和2年10月、開発に着手されました。その後、英国及び伊国と機体の共通化等について共同分析がなされ、一昨年12月、3か国各々の優れた技術を結集した共通の機体を開発することにより、開発コストやリスクを日英伊で最大限分担しつつ、将来にわたって我が国の航空優勢を確保できる戦闘機を共同開発する旨、首脳声明を公表するに至りました。また、昨年12月、日英伊防衛相会合が開かれ、令和17年までの次期戦闘機の配備に加え、各国の防衛産業基盤強化のための確かな基礎を築くべく、「グローバル戦闘航空プログラム政府間機関(GIGO)の設立に関する条約」に署名しました。航空自衛隊は、開発主管である防衛装備庁と緊密に連携して、次期戦闘機の開発に係るユーザーニーズを適切に反映させているところです。
(3)同盟国・同志国との共同訓練の状況
航空自衛隊は、「自由で開かれたインド太平洋」へ寄与する観点から、同盟国のみならず、インド太平洋国家やこれらの地域への関与を強化しているヨーロッパ諸国等の同志国との連携を強化しています。昨年は、米国との共同訓練の他に、日米豪共同ISR訓練(令和5年3月)、日仏共同訓練(同年7月)、日伊共同訓練(同年8 月)、日豪共同訓練(同年8〜9月)といった同志国との戦闘機等の往来を伴う共同訓練を活発に実施しました。
(4)偵察航空隊の態勢整備
偵察航空隊は、一昨年12月に新編され、同月にグローバル・ホークの初飛行を実施して以来、態勢整備を進めてまいりました。昨年6月には、3機目のグローバル・ホークが三沢基地に到着し、当初の計画どおり3機体制を完成させました。現在、航空自衛隊操縦者を順次養成しているところです。
(5)航空自衛隊馬毛島基地(仮称)の整備
馬毛島基地を早期に開設するべく、必要な準備を実施するため、令和6年度に西部航空警戒管制団隷下に馬毛島先遣隊を新設予定です。馬毛島先遣隊の部隊規模は約90名であり、馬毛島基地の早期運用開始に向けて、航空機を運航する上で必要な施設等の確認、基地の運営に必要な規則等の作成などの諸準備を実施することを想定しています。また、航空自衛隊として、F―35Bの発着艦訓練を行う模擬艦艇施設の整備に必要な経費を予算要求しています。
4 様々な施策への取り組み
最後に、最近、航空自衛隊が取り組んでいる様々な施策の状況ですが、昨今の募集環境の悪化等に対応するため、定年退官した操縦者を教育部隊等の操縦教官として再任用をすることとし、本年度既に採用を行っています。また、無人化や省人化に係る取り組みとして、T―4練習機等の整備業務を部外委託として、OB等の部外力の活用を進めている他、小型のスマートグラス等を用いたリモートによる整備支援が可能な取組み等を進めております。
5 おわりに
本日、ご参集されている皆様をはじめとして、つばさ会の皆様にもご指導ご協力をいただきながら、年度の防衛予算をしっかりと執行し、航空自衛隊の精強化を進めてまいります。
令和5年度航空自衛隊予算の概要
空幕会計課長 1等空佐 澤田 裕之
1 予算編成経緯
防衛力整備計画2年目となった令和6年度予算編成は、例年と同様の日程で進められ、令和5年
12月22日に政府案が閣議決定された。また、令和5年度補正予算については、11月10日に閣議決定され、11月29日に成立した。
【概算要求まで】
令和5年6月16日に「経済財政運営と改革の基本方針2023」、いわゆる「骨太の方針」が閣議決定された。また、7月25日には「概算要求に当たっての基本的な方針」が閣議了解され、概算要求基準が示された。防衛省は、「防衛力整備計画対象経費については、『防衛力整備計画』を踏まえ、所要の額を要求」との概算要求基準に基づき、防衛力抜本的強化実現のため、昨年度からの事業の進捗状況を踏まえつつ、令和6年度中に着手すべき事業を積み上げ、概算要求を行った。
その結果、防衛関係費の概算要求については、歳出予算が対前年度1兆1384億円増の7兆7385億円(SACO関係経費及び米軍再編経費のうち地元負担軽減分に係る経費を除き、デジタル庁・各府省共同プロジェクト型システム及び各府省システムに係る経費を含む金額)となった。
【政府予算案決定まで】
令和5年11月2日に閣議決定された「デフレ完全脱却のための総合経済対策」において、自衛隊の運用態勢の速やかな確保、施設の整備、自衛隊の活動を支える基盤や環境の強化・改善、米軍再編の着実な実施を図ることが示された。
防衛省は、これを受けて「自衛隊の災害への対処能力の強化等」として1463億円、「自衛隊等の安全保障環境の変化への適切な対応」として6617億円、「人事院勧告に伴う人件費の増額分等」として50億円の計8130億円を計上し、補正予算が成立した。
また、12月8日に閣議決定された「令和6年度予算編成の基本方針」において、今後の経済財政運営に当たっては、まず、「デフレ完全脱却のための総合経済対策」を速やかに実行に移すとともに、防衛関連としては、我が国の領土・領海・領空を断固として守り抜くため、令和5年度から令和9年度までの5年間で43兆円程度の防衛力整備の水準を確保し、防衛力の抜本的強化を速やかに実現することとされた。
防衛省は、「令和6年度予算編成の基本方針」に基づき、整備計画期間内の防衛力抜本的強化実現に向け、令和6年度において必要かつ十分な予算を確保した。
2 防衛関係費の概要
こうして編成された令和6年度防衛関係費の概要を、財務省はホームページ上で次のとおり言及している。
①令和6年度の防衛関係費は、防衛力整備計画の2年目の予算として、防衛力強化を着実に実施するため、「整備計画対象経費」として7兆7249億円(対前年度+1兆1248億円)を計上。「SACO・米軍再編関係経費」2247億円を含む防衛関係予算全体では、7兆9496億円(対前年度+1兆1277億円)。
②防衛省における装備品取得、研究開発等の事業には、その実現までに複数年度を要するものが多く、目標とする防衛力強化の実現に向けて早期に開始する必要があることから、「整備計画対象経費」に係る新規契約額として9兆3625億円(対前年度+4100億円)を計上。「SACO・米軍再編関係経費」3178億円を含む全体では、9兆6803億円(対前年度+1035億円)。
③スタンド・オフ・ミサイル(12式地対艦誘導弾能力向上型の取得等)や統合防空ミサイル防衛能力(イージス・システム搭載艦2隻の建造等)といった分野に、引き続き、重点的に予算を配分。
④機動展開能力の向上関係(大型輸送ヘリCH―47の取得)や従来の装備品についても、可能な価格低減をはかりながら取得を推進。
⑤従来不足が指摘されていた装備品等の維持整備や弾薬取得の分野についても予算の措置を継続。(契約ベースで、維持整備2兆3367億円(対前年度+3011億円)、弾薬取得9249億円( 対前年度+ 9 6 6 億円))。
⑥新領域(宇宙・サイバー・電磁波等)への対応として、宇宙分野では、我が国初のSDA(宇宙領域把握)衛星の打上げに向けた費用等を、サイバー分野では、サイバー人材の育成強化やシステムの安全性向上に係る費用等を計上。電磁波領域についても必要な装備に係る費用(電子作戦機の開発等)を着実に確保。
⑦人的基盤の強化では、自衛隊員の任務や勤務環境の特殊性を踏まえ、艦艇の乗組手当等の増額(+96億円)により処遇を改善。事務官等の人員について、定員合理化数等を上回る増員(107人の純増)を確保。
⑧自衛隊部隊の新編、新規装備品導入、弾薬の取得に伴う火薬庫等の施設及び庁舎・隊舎等の耐震化・老朽化対策等を実施するため、契約ベースで、6313億円(対前年度+1263億円)を確保。
3 航空自衛隊予算案の概要
以下、航空自衛隊の防衛力整備計画対象経費について説明する。
歳出ベースは、対前年度2618億円増の2兆1231億円で、対前年度比114%となった。
契約ベースでは、対前年度647億円減の2兆3914億円で、対前年度比97%となった。
総括すると、防衛力整備計画2年目の予算として、前年度と同規模の予算が認められた。
結果として、令和6年度予算案については、防衛力を5年以内に抜本的に強化するため、スタンド・オフ防衛能力や統合防空ミサイル防衛能力、機動展開能力の向上を図るとともに、装備品の維持整備や弾薬取得、施設整備等を着実に進めていくことができる内容の予算となった。